さて、あとがきです。このシナリオを、以下の手紙とともに私は今年(2004年)の六月半ばにサンライズに送りました。
転載させていただきます。
拝啓
サンライズ内 ガンダムW担当係様
いつも楽しく、貴社の作品を拝見させていただいております。現在40歳の主婦でオールドファンです。最近作の「ガンダム SEED」も毎週楽しみに見ておりました。作画の綺麗さなど、昔の作品からは隔世の感があります。ファーストガンダムの映画やテレビの再放送を見たのが、つい先日の事のようなのですが、時間はたってしまったのだなあと思います。かく言う私ですが、実は一番ファンであったのは、高橋良輔監督の「装甲騎兵ボトムズ」でありました。これでは同人誌をつくりましたし、ふとした縁で、高橋監督とはここ数年、年賀状をやりとりするという、まことに恐れ多いことを行っております。ということで、今回ガンダムについてお便りをお出しするのは、いわば映像化に不遇なボトムズに対して、めぐまれたガンダム陣営ということで、「敵に塩を送る」ようなものではないかと思うのですが、全くたいした塩でもないので、というか半分イチャモンか言いがかりと思われるフシもありますので、ご了解ください。
さて、ガンダムWですが、この作品についてはもともと私は「鎧伝サムライ・トルーパー」のファンでありましたので、そこから同じ池田監督&あの村瀬作監ということで、いやでも注目しないではおれませんでした。で、見ました。第一話を見てのけぞりました。確かにトルーパーよりはガンダムということで、格調は高いし、作画も綺麗です。が・・・・私の見たかったのはこのキャラクターなら、こういう話じゃないんだ・・・その思いは最終回まで続きました。中にはよくできていると思える回もありました。具体的にどの回がそうだったかは言えないのですが、カトルの故郷のコロニーが自爆して、カトルがガンダムゼロに乗るあたりは盛り上がっていてよかったです。でも、ガンダムならこういう話じゃないだろー、とかセリフがわからないっすよ・・・とテレビの前で赤くなったり青くなったりしている私がおりました。
もう9年前のことをほじくり返すのは酷なのかも知れません。実際、ガンダムWのオープニングとエンディングの映像は、9年たった今見ても大変に美しいです。この作品に当時のスタッフが賭けた思いのようなものが見ていて伝わってきます。たとえ本編に作画がひどい回があったとしても、それは認めないわけにはいきません。しかし、あえて私は言いたいのです、子供向けというか売ろうとしすぎだったんじゃないの、と。私はガンダムでは評価が辛い、「ガンダム0083 ジオンの残光」が一番好きです。あの作品のラスト20分間は、本当に何回も見ました。LDを買っても飽き足らず、DVDまでそろえました。あれと同じ物を作れとは言いませんが、あれができてガンダムWは美少年ものだからできなかったと世間で言われて、そのように扱われる。それが本当にとても悔しいのです。私は角川から出ているムック本を今見てこれをワープロで書いていますが、これに載っている設定資料を見ただけでも、その実現の可能性はあったのだと思います。と言うのは、子供向けに演出されていても、その設定にはかなり意味ありげな裏打ちがされていたと思われるからです。また、デザイン的に見ても子供向けにするにはもったいないデザインばかりです。まあこうしてガンダム支持者は深みにはまっていくのだろうなあ、と思うのですが、残念でため息が出てしまいます。
また、ヒイロのキャラ設定が初期と後期では違ってしまっているのも気になりました。OAVでもまた違います。私はテレビの後半のヒイロが好きなので、初期のヒイロは本当に何を考えているのか何度見てもわかりません。リリーナもそうです。他のキャラについても、そうかもしれません。やはりお話がつながっているのですから、それは見ていてとても気になりました。比較に出して悪いのですが、「ガンダム SEED」の場合は、キャラのイメージがはじめから決定していたらしく、キャラの基本的な部分の変更はなかったように思います。具体的に言えば、第一話のヒイロの高笑いですか。あと、リリーナが南極で兄のゼクスを、ヒイロに殺しなさい、と命令する場面もおおいにとまどいました。私の考えるヒイロとリリーナは、決してそのような礼儀に反することはしないのです。
さて、本題に移らせていだきます。このような愚痴を述べるだけでファンレターを送るのは、やはり私としても気がひけます。ということで、私なりの「ガンダムW」というものの片鱗をお見せしたいと思い、ふつつかながらアマチュアがペンを取ってみました。主婦が家事の合間に書けるようなものじゃない、という富野監督の叱責が聞こえるようです。同封の書類はお暇なときに目を通してください。シナリオを書いたのも、作曲をしたのもこれが初めてです。図書館で筒井康隆先生の「大魔神」と、「たのしい作曲のしかた」という本を借りてきて、見よう見まねで書きました。楽譜は昔これでもピアノを習っていたのですが、コードの読み方とか全然わからないので困りました。作詞の本も借りてきたのですが、結局自分の思うところで書きました。今の流行の曲ではありません。あえて言うならば、「Zガンダム」の「水の星より愛をこめて」が好きでしたので、そのような感じにしてみました。(今度映画化されるそうですが、また見せていただきます。)シナリオについては、第一話だけですが、とにかくここだけは変えてほしいという部分を変えてあります。あと、殴り書きの絵コンテがありますが、何のことやらわからないと思いますが、オープニングにつけるならこんな映像を・・・と浮かんだものを書き散らしたものです。
ですが、ここでひとつ提案があります。「もうそれはガンダムでやったよ」というのなら、無視してください。私も全作品見ていないので・・・・恐縮ですが、
ぜひ夜空の雲海の中をこちらに向かって突き進んで飛ぶガンダムを描いてほしいのです。イメージとしては隠密作戦、という感じで。ガンダムが出て来るタイミングは、「08小隊」のガンダムがぐわっ、と正面で出てくるあの感じがいいと思います。ただし、夜空で、月光が美しくて、雲はセルなんかではもちろんなくて、photoshopの雲模様フィルターのような感じのを加工して作ってほしいのです。(「エスカフローネ」の運動場の空にわきあがる雲の失敗には涙してしまいました・・・・なぜセル画)私が切った絵コンテでは、それで終わっているのですが、そんな絵がオープニングに出てきたら、このガンダムはどういう作戦でこういう飛び方をするのだろうか・・・とイメージが膨らむと思います。宇宙や地球をバックに決めポーズを取るのはもう古いです。(と、思っています、勝手に)
最後になりましたが、私はそれでも「ガンダムW」という作品が好きなのです。苦言ばかり呈しましたが、好きだから、こんなことまで何の得にもならないのにやっているのです。シナリオを書いているとき、何度もラフマニノフの交響曲の第三番のテープを聴きました。この感じがガンダムWでぜひ私はほしかったのです。こんなことを言うと、本当に作曲担当の先生やTWO-MIXに悪いのですが、あれは私の好きなイメージではないのです。特に第三楽章は、トレーズのイメージにぴったりだと思います。まあ古いハリウッド映画みたいな曲なんですが、その「古いハリウッド映画」みたいなノリが、私はガンダムWで一番見たかったのです。リリーナがオードリーから参考にしたのなら、「ローマの休日」のあの衣装だけではなくて、もっとあの頃の映画の雰囲気を出してほしかったです。私の好きだった「ボトムズ」は、そういう映画をたくさん見てシナリオを書いているゾ、という匂いがしました。サンライズさんの作る作品は、他社がやらないそういう「映画青年」みたいなところが、昔から好きで、最近作の「カウボーイ・ビバップ」なんかすごくよく出ていたと思います。これからもそういう作品を私は貴社には期待しております。
それでは長々と失礼しました。ますますのご発展をお祈りしております。
敬具
文中で、「作曲をした」と書いているのは、これらの書類に楽譜をつけて送ったからです。その譜面は掲載できないので、歌詞のみ引用させていただきます。
ガンダムWオープニング「月の翼」
1.月のさやけさは いつもかがやいて
かくす雲影を 我に見せぬのか
時の歩む音(ね)は 絶えることもなく
きざむ明日の陽(ひ)を 瞳信じれば
往け 往け
try あなたのそばに いつもいるから
ふたりつながる日を
fly つばさひろげて 見えぬ未来を
切り開く力 満ちて
2.月のむらくもを はらう風吹きて
標(しるべ)なき道を ひとりゆく我は
時の過ぎ行くは 果てしもあえずに
消えぬ過去の日を 涙流すなら
往け 往け
cry あなたがいれば ふたり一瞬
きっとわかりあえる
fly つばさはばたけ 君の未来へ
希望の光 とどけ
エンディング「海の満ちるそばで」
1.わたしは生きる 海の命を
あなたは生きる 海の満ちるそばで
でもあなたは知る 火の命を 今
2.私は進む 風の心で
あなたは進む 風のゆらす道を
でもわたしは知る 地の思いを 今
さて、今回の作品というのもおこがましいのですが、あとがきを述べますと、一重に「ガンダムW」の第一話のあまりの出来の悪さに怒髪天をついたと言ったところです。つまり何年間も見放していたのですが、この案はもうその第一話を見た瞬間におそらく自分の中でできていたと思います。確認のために、ムービックが出していたフィルムブックを「こういうものはおさえておかないと絶滅の危機になる。」と、100円で古本屋で購入していたのですが、まさに役に立ちました。なんかロマンアルバムとかでも第一話が掲載されていたようですが、この本は細かいカットが掲載されていたのでね、よかったですよ。
まあこのシナリオは、自分でもいろいろ突っ込んでいます。なんでヒイロが核爆発でも生きているのか、とか、暗いところでパソコンの画面が見えんのか、とか、さらに暗いところでサングラスをかけて襲う男たち、とかですね、それはもう言ったらきりがないですよ。しかし思います、何の脈略もなく「星の王子様」と口走ったりするよりはマシなんじゃないかと。えー、私は今ナナメ前方の方をにらんでおります。もうこのムービックのフィルムブックも「焚書坑儒だ!」と叫んで、華氏なんとかというSF小説に出てくる通りに燃やしてもいいと思ったりします。嘘です。そんなことはしません。しませんが、第一話で「何故『大気圏突入』をしないーーーーー!!!!」とテレビをプロレスラーのように窓からほうり投げている私がいました。おかげで今回、シナリオでヒイロは核爆発から生まれるゴジラになりました。もう「アルマゲドン」ですよ。やるなら、アレをやれ、と。セル画で燃えんな、と。その場面は特撮画面を使え、とかですね。いえいえまあ、家のテレビは今無事ですが、心の中で毎回、「こんなおまえたちは、これから抹殺だな」とヒイロ君になっている私がいました。うーん、キャラクターと自己の同一化ですか。キャラコテハンですか。そんなんじゃねぇよ。ただむしょうに腹が立っただけのことです。
「ふっ・・・・それでいいと思ってるね・・・・・そんな名前がついてんのに・・・・ふふふふふふふ。」
まあもうすんだことですよね。「SEED」で大気圏突入はちゃんと見せていただきましたし。これから続編が作られるそうですから、とても楽しみですね。「落とせ!シャアが見ているんだぞ!」そんな現場の雰囲気が伝わってくるいい番組になるよう、祈ってますよ。
このシナリオの続きは、いつかまた、遠い将来に書くかも知れません。しかし、シナリオですから、書くの下手だし、全40話近く書く気は到底起きません。だいいち、シナリオを読む人って少ないと思いますから。
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